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横浜地方裁判所 昭和62年(ヨ)1437号 決定 1988年5月09日

債権者

市川力政

風呂橋修

右両名訴訟代理人弁護士

野村和造

鵜飼良昭

福田護

岡部玲子

債務者

いすゞ自動車株式会社

右代表者代表取締役

飛山一男

右訴訟代理人弁護士

竹内桃太郎

田多井啓州

吉益信治

補助参加人

いすゞ自動車労働組合

右代表者執行委員長

小川松太郎

右訴訟代理人弁護士

渡部晃

主文

一  債務者は、

1  債権者市川力政に対し金四二万三六三四円及び昭和六二年一一月一二日から本案事件の第一審判決言渡しに至るまで毎月二三日限り一ケ月金二〇万三三四〇円宛

2  同風呂橋修に対し金四四万四一四七円及び昭和六二年一一月一二日から本案事件の第一審判決言渡しに至るまで一ケ月金一九万二二七〇円宛

の各金員を仮に支払え。

二  債権者両名のその余の申請を却下する。

三  申請費用は債務者の負担とする。参加によって生じた費用は補助参加人の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

1  債権者両名が債務者に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  債務者は

(一) 債権者市川力政に対し金四二万三六三四円及び昭和六二年一一月一二日から本案判決確定に至るまで毎月二三日限り一ケ月二〇万三三四〇円宛

(二) 同風呂橋修に対し金四四万四一四七円及び昭和六二年一一月一二日から本案判決確定に至るまで一ケ月九万二二七〇円宛

の各金員を仮に支払え。

3  申請費用は債務者の負担とする。

二  申請の趣旨に対する答弁(債務者)

1  債権者両名の申請をいずれも却下する。

2  申請費用は債権者両名の負担とする。

第二当裁判所の判断

一  当事者間に争いのない事実及び一件記録によれば右の事実を一応認めることができる。

1  債権者市川力政(以下「債権者市川」という。)は昭和四三年四月債務者会社と労働契約を結び川崎工場鶴見製造所機械課に勤務し、同風呂橋修(以下「債権者風呂橋」という。)は昭和四二年三月債務者会社と労働契約を結び川崎工場製造部工具課に勤務していたものであること

2  債務者会社と補助参加人組合(以下「参加人組合」という。)との間には昭和四九年九月一日発効、同五三年四月二八日改訂の包括労働協約(以下「本件労働協約」という。)が締結されており、同労働協約によれば、会社は参加人組合を脱退した者を解雇する、ただし、会社が解雇を不適当と判断した場合にはこの限りではない旨の規定があること

3  債権者両名は昭和六二年一〇月二七日参加人組合に対し、同組合を脱退する旨の意思表示をなしたところ、同組合は同年一一月六日第四回代議員会を開催し、「組合員の脱退の組織確認と脱退に伴う労働協約第三条(ショップ制)適用の申入れに関する決議(案)」を満場一致で採択し、同年同月九日付内容証明郵便をもって、右代議員会において債権者両名の脱退届を組織として確認した旨債権者両名に通知をなしたこと

4  そして、同年同月九日参加人組合三役は債務者会社に対し右決議に基づいて「組合員の脱退に伴う労働協約第三条(ショップ制)適用の申入れ」を行なったこと

5  債務者会社は参加人組合からの右申入れを受けて、同年一一月九日団体交渉を行なったのち、同年同月一二日債権者両名に対し解雇の意思表示をしたこと

6  しかし、債権者両名は昭和六二年一〇月二七日日本労働組合総評議会全日本造船機械労働組合(以下「全造船」という。)に加入し、債務者会社における分会(全造船東部地方本部関東地方協議会いすゞ自動車分会)を結成したこと

二  ところで、ユニオンショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず、またはこれを失った場合に使用者をして当該労働者を解雇させることにより労働者の団結、組織の拡大強化を図ろうとする制度である。しかし、右協定は当該組合の維持強化に役立つ反面、労働者が労働組合を選択する自由と衝突せざるを得ない。労働者が労働組合を選択する自由とは労働者がどのような組合に加入して団結するかを選択する自由であり、憲法二八条は団結権の保障内容としてかかる自由をも保障していると解すべきである。それ故、ユニオンショップ協定が労働者の有する組合選択の自由と抵触する場合には、その限度で右協定の効力を否定すべきものと解する。

右に述べたところは、ユニオンショップ協定を締結している労働組合の組合員が、右組合を自由意思により脱退し、右脱退に接着して他の組合に加入した場合にも妥当するといわなければならない。なぜならば、右脱退者に対しても組合選択の自由を保障すべきであるからである。

そして、ユニオンショップ協定の効力が脱退者に及ばないのは右に述べた理由によるものであるから、集団脱退、分裂等組合の統一基盤が破壊された状況のもとにおける脱退に限りユニオンショップ協定の効力が否定されると制限的に解すべきではない。

また、団結権を保障するに値する自主性を有する組合であるかぎり、平等に団結権を保障すべきであるら、脱退者が脱退後に加入した組合の規模、当該企業内における組合員数の多少によって、ユニオンショップ協定の効力に差異を設けるべきではない。

更に、会社が不当ないし不合理な理由にもとづいて脱退者を解雇したか否かは解雇権の濫用の成否に関し判断すべき場合があるにしても、会社に右意図が存しなければユニオンショップ協定の効力を制限できないと解するのは相当でない。また、当該ユニオンショップ協定の締結に際し、脱退者がこれに賛同したか否か、あるいは脱退者の脱退の意図等脱退者の個人的事情もユニオンショップ協定の効力範囲を左右するとは解しがたい。組合からの脱退は当該組合を弱体化する可能性がないとはいえないけれども、脱退は組合からの離脱という消極的行為であるから、特段の事情のないかぎり、脱退それ自体をとらえて、労働組合の団結権に対する積極的侵害行為と認めることはできない。

また債務者会社が主張するように、脱退者が別組合に加入することにより労使関係が複雑、不安定となることはありうることではあるが、憲法上組合選択の自由が保障されていると解する以上、複数組合が併立する状態は使用者としてもこれを忍受すべきことであって、かかる状態によって労使関係が複雑、不安定となることを理由にユニオンショップ協定の効力に関する前記見解を改める余地はない。

以上、ユニオンショップ協定を締結している労働組合の組合員が、右組合を脱退し、右脱退に接着して他の組合に加入した場合には、右協定の効力は脱退者に及ばず、従って、右協定に基づく解雇は無効であるといわなければならない。

債権者両名は前記のとおり、参加人組合を脱退後、ただちに全造船に加入したのであるから債務者会社と参加人組合との間で締結されたユニオンショップ協定の効力は及ばず、右協定に基づく本件解雇は無効であると解される。

三  次に一件記録によれば、以下の事実が一応認められる。

1  債務者会社における賃金の支払は毎月一日から末日までの分を当月の二三日に支払われること、過去三ケ月の平均賃金は債権者市川につき二〇万三三四〇円、同風呂橋につき一九万二二七〇円であること

2  昭和六二年の年末賞与は債権者両名を除く債務者会社社員には同年一二月三日支払われたこと、債務者会社が実施した支給基準によれば、債権者両名が支払いを受けるべき賞与は

(一) 債権者市川につき四二万三六三四円

(二) 同風呂橋につき四四万四一四七円であること、

しかるに、債務者会社は債権者両名を解雇したとして、債権者両名の労働契約(ママ)の地位を争い、かつ、昭和六二年一一月一二日以降の賃金及び同年年末賞与の支払いをしないこと

四  本件解雇はユニオンショップ協定に基づく解雇義務の履行としてなされたもので、債務者会社は、債権者両名の不就労につきなんら責任がないから、民法五三六条一項により債権者両名は債務者会社に対して賃金請求権を有しない旨主張する。

しかし、組合を脱退した者が脱退時に接着して、他組合に加入した場合、右脱退者に対しユニオンショップ協定の効力が及ばないことは前述のとおりであり、かつ、使用者がユニオンショップ協定上の義務の履行として当該労働者を解雇しなければならないとしても、右の義務履行は使用者が任意に締結した協定に基づくものであるから、使用者が拒否することによって生ずる労働者の労務提供の履行不能は債権者である使用者の責めに帰すべき事由に基づくものであり、労働者は反対給付としての賃金請求権を失なわないと解する。

従って、債務者会社の前記主張は理由がない。

五  一件記録によれば、債権者両名はいずれも賃金を唯一の生活の糧とする労働者であり、十分な蓄えもないので、本件解雇によって直ちに生活困窮を余儀なくされていること、それ故賃金の支払いを受けられないまま本案を待っていたのでは著しい損害を受けること必至であることが一応認めることができる。

右によれば債権者両名の請求のうち賃金の仮払いに関し保全の必要が存することは明らかである。

しかし、賃金仮払いのほかにさらに債権者両名の労働契約上の地位を保全すべき必要性を認めることはできない。

六  以上によれば債権者両名の申請は主文掲記の範囲で理由があるので、保証をたてさせないで、これを認容し、その余の申請は理由がないのでこれを却下し、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を各適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 青山邦夫)

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